状況は好転する バイデン経済に期待する理由  

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明けましておめでとうございます。

(新年が明けてもう数日たってしましましたが(^_^;))

 経済学者のポール・クルーグマン氏(2008年度ノーベル経済学賞受賞者)が、米国における2021年について明るい見通しを述べていました。

ひとたびワクチン接種が行き渡れば、状況は予想より早く良くなり、良い状態は長く続くと・・・。

彼の予想がすべて当たることを心から願います。

 NYタイムズの記事を全訳してみました。

原文はこちら

www.nytimes.com

状況は好転する  バイデン経済に期待する理由

Paul Krugman

2020年12月31日

 今後数カ月は、政治、疫学、経済面で混乱状態が続くだろう。しかし、2021年のある時点で事態は上向き始めるだろう。そしていったん良いニュースが聞かれ始めれば、状況は多くの予想よりずっと早く良くなり、その状態はより長期にわたり続くと見ている。そう信じるに足る十分な理由がある。

 好転しないと予想されるひとつは政治状況であることは認める。来る日も来る日も、共和党ドナルド・トランプだけではなく)は、想像していたよりはるかにひどいことを露呈し続けている。例え、想像していたよりはるかにひどいという事実を考慮していたとしても、だ。我が国の二大政党のひとつは、敗北した選挙の正当性をもはや受け入れようとしない。それは共和国としての米国の先行きに暗い影を落としている。

 だが他の面では、楽観的になれる明確な事例がある。科学が、新型コロナウイルスワクチンの奇跡的なスピードの開発によって、我々を救おうとしている。確かに、米国でのワクチン接種の初動段階は計画通りに進んでいないが、驚くほどのことではない。それは単なる一時的な遅れだ。何より我々は、3週間もしないうちに、自身の職務遂行に意欲を持つ大統領を迎えるのだから。

そしてひとたびワクチン接種が広範囲に行き渡れば、経済は回復するだろう。問題はどの程度の回復規模かということだろう。

 前回の経済危機後は景気低迷が続いた。雇用が2007年の水準に戻ったのは2014年、米国の実質家計所得中央値が損失部分を回復したのは2016年だった。多くの人が、今回もこのストーリーが再演され、特に、共和党が上院で多数派を維持し、またしても、責任ある財政運営という口実の下に経済活動を妨害すれば、その可能性は高いと予想している。

 しかし、2020年の危機は2008年のものとは全く異なっており、今回は明るい見通しを期待できる。  

前回の経済危機は、子供向けマンガ「ワイリー・コヨーテ」*でおなじみのシーンが見られらた。民間セクターが突然足元を見下ろし、法外な住宅価格と高水準の家計負債を支えるものが何もないことに気づき、真っ逆さまに落下した。その結果、消費低迷が長期化した。高い失業率の長期化を避ける唯一の方法は持続的かつ大規模な財政刺激策となるはずだったが、共和党によって阻まれた。

 それに対し今回の2020年危機は、コロナウイルスという突然の逆風によって引き起こされた。パンデミック前、民間セクターが四苦八苦していたようには見えない。数百万の家族が直面している苦難を軽視すべきではないが、平均すると米国民は貯蓄に精を出しており、パンデミック後はより健全な家計状態で姿を表すだろう。

 というわけで私は、人々が外に出てお金を使うのが安全だと感じるようになれば、経済は急速に回復すると予想する一人だ。ミッチ・マコネル上院院内総務氏をはじめとする共和党一派は間違いなく、民主党政権下でのいつもの手段を使って景気回復を妨害しようとするだろう。だが今回は、援助の必要性はオバマ政権時ほど深刻ではないだろう。

 そして、太鼓判は押せないものの、好景気は長期に及ぶのではないかと思っている。なぜなら、他の多くの人と同様、テクノロジーの未来に楽観的な見通しを持っているからだ。

2008年の危機後の数年間は、雇用の伸びが鈍化しただけではなく、テクノロジーに対する失望とも時期を同じくした。起業家ピーター・ティール氏(彼の政治的見解は嫌悪するが、上手い言い回しを作るのは認める)は、それをこう表現した。「空飛ぶ車が欲しかったのに、代わりに手に入れたのは140文字だ」。(単に制限文字数を280にするのが大躍進であるかのように扱われたことからすれば、当時の技術革新がいかに取るに足りないものだったかがわかる)。つまり、情報の伝達だと華々しくぶち上げてきたものの、物質面では大した進歩はなかった。そして今でもそれは、我々が住む世界なのだ。

 しかし最近、新しいフィジカルテクノロジーをめぐり様々なニュースが飛び交っており、1990年代初頭における、インフォメーションテクノロジーに対する期待と興奮を思い起こさせる。このときの技術革新が1995年から2005年の生産性の急上昇につながった。バイオテクノロジーもついに、その真価を発揮していているようだ。今回の奇跡的なワクチンはその賜物だ。再生可能エネルギーは素晴らしい進歩を遂げている。ソーラー発電はかつてヒッピーの夢物語と見られていた。今では化石燃料より安価なエネルギーだ。自動運転者や実験室で育った人口肉などは、近い将来の実用化については懐疑の余地が残されているものの、このようなイノベーションについて議論していること自体が、未来に向けた良い兆候だ。

こうしたイノベーションの新たな波は、政策とはさほど関係がない。オバマ政権下のグリーンエネルギー推進が、再生エネルギーの進歩に一役かったのは確かではあるのだが。しかし、バイデン政権は前政権のような反科学主義とはならないし、石炭に依存した過去に何が何でもしがみつくようなことはしないだろう。それは、我々が進歩を活かしていく後押しになる。

テクノロジーに関する私の楽観的観測については、ワクチン普及後に雇用は急速に回復するという期待に比べると、自信のほどは控えめと言っておこう。しかし総じて言えば、ジョー・バイデン氏の主導のもと、経済が喜ばしい形で期待を裏切る展開をする可能性は十分にある。ハッピーニューイヤー。

*ワイリー・コヨーテ: アニメ「ワイリー・コヨーテ」では、敵を追いかけるワイリーが空中で突然足の下に何もないことに気づき、はるか下の地面に落ちるシーンが何度も出てくる。