2020年の大統領選は米国民主主義の終焉となるのか?

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米国大統領選挙では、郵便投票をめぐっても揺れている。新型コロナ感染予防のために郵便投票を実施したい複数の州がある中、トランプ氏は自分に不利になることで猛烈に反対。さらに、トランプ氏支持者で6月に郵政公社のトップに就任したばかりのルイス・デジョイ総裁はサービスをわざと停滞させて、郵便投票を行わなくさせているという疑惑まで強まっている。ジャーナリストのトーマス・フリードマン氏は郵便投票を行えば単に「疑惑の選挙」以上の問題が起こるので、対策をとって投票所で投票しようと、解決策を訴えている。NYタイムズの社説を和訳してみた。

英語の記事はこちら:

www.nytimes.com

2020年の大統領選は米国民主主義の終焉となるのか?

自由で公正な投票と平和的権力の移行の両方が疑問視

Aug. 18, 2020 Thomas L. Friedman

こんな一文を書く、あるいは読むことになるとは夢にも思わなかった。今年の11月、米国歴史上初めて、アメリカ合衆国は自由で公正な選挙を行えない可能性がある。そして、トランプ大統領ジョー・バイデン氏に敗れたとしたら、合法かつ平和的な権力の移行は行われるのだろうか。

その理由はこうだ。もし国民の半数が、現政権による米国郵政公社への意図的な妨害行為のため自分の投票が正しく集計されなかったと考えたとしたら、そしてもし残りの半数が、バイデン氏への郵便投票は不正だったと大統領に信じ込まされたとしたら、その結果は単に疑惑ある選挙だったとか、連邦最高裁が判決を下したブッシュ対ゴア選の再来だった、では済まなくなるだろう。今日の米国民主主義の終焉となるかもしれない。そして、新たな南北戦争勃発の火種となもなりかねない、と言っても大げさではない。

脅威は現実

従って私は個人的に、徒歩、ジョギング、スキップ、ハイハイ、腹ばい、自転車、ハイキング、ヒッチハイク、車、同乗、ランニング、飛行、転がる、転がされる、おんぶ、トレッキング、列車、小走り、トラック、もったいぶり歩き、水に浮いて、ボート、そぞろ歩き、ぶらぶら歩き、行進、バス、タクシー、ウーバー、Lyft、スクーター、スケボ―、オートバイのどんな方法を使ってでも、マスク、フェイスシールド、手袋、ゴーグル、防護服、宇宙服、またはウェットスーツを着用して、11月3日には必ず近所の投票所へ行き、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスに一票を投じ、自分の票が集計されるようこの目で確かめるつもりだ。

それは何も私が熱狂的リベラルだからではない。米国は、核の部分では依然として中道左派中道右派の国であり、両者を再びまとめ上げた上で率いていける人物によってこの国は最も上手く統治される、と考えるからだ。バイデン氏は最も上手くそれができる人物だと信じているし、実際多くの米国人にアピールする彼の魅力はそこにある。

パンデミックが猛威を振るう中、私がやろうとしている「投票場に出向いて投票する」というやり方は、多くの人にとっては全くもって選択肢とはならないことは理解している。その理由はトランプ氏とは全く関係ない。

第一に、通常投票所で働いている多くの退職者たちは今年、コロナウイルスへ感染するリスクから選挙スタッフに志願することを恐れている。またそれ以外の多くの人々は、投票所の数が減ったことで混雑した長蛇の列に並ぶはめになり感染する可能性が高まることを、当然ながら恐れている。

また、トランプ氏の過ちというわけではないが、郵便業務は本来、大量の投票用紙を郵便で届けすべての票が投票、集計されるよう遅れずに配達することを想定したものではない。

トランプ氏の過ちは、指導力を発揮する代わりに、つまり議会と全州の知事と協力して米国の国政選挙が直面するこの前例のない挑戦に対処すべく緊急体制を組織する代わりに、大統領としての公職の権威を利用して、全ての郵便投票は不正と見みなされるべきだと国民に(ただしフロリダのような自分を支持してくれそうな州を除いて)信じ込ませようとしていることだ。

トランプ氏は12日の記者会見で、米国郵政公社USPS)に対する250億ドルの緊急補助金と、35億ドルの各州への選挙対策支援のいずれにも署名しないと述べた。この二つはともに、民主党連邦政府新型コロナウイルス経済対策法案の一部として強く求めてきたものだ。

トランプ氏は翌日の「フォックス・ビジネス・ネットワーク」のニュースでこう述べた。「彼らは郵便局に仕事をしてもらうためにその補助金が必要だ。そうすれば郵便局は何百万の郵便投票を受け取れるようになる」、「だが、この二つの項目を手に入れることができなければ、全国一律の郵便投票は実施できないということだ。なぜなら、そんな装備はされていないからだ」

私はかつてバナナ共和国の独裁者たちを取材したことがあるが、選挙の不正操作や対立候補への票の無効化を企てるのに、彼らの方がもっと微妙な言い回しをしていた。 

政策に関しては何をしたらいいのか?選挙区の下院議員や上院議員のオフィスをEメール攻め、抗議攻めにして、近所の郵便ポストが撤去されないように守ろう。そして、最も重要なことは、トランプ氏が指名した米郵政公社のルイス・デジョイ総裁のNorthwest D.Cの自宅近くの通りで行われている抗議デモに参加することだ。そして、こう通告する。あなたがやり方を変えなければ、今後生きている限り、あなたがどこへ行っても、どのレストランへ入っても、どの映画館に行っても、犬の散歩をするごとに、人々はこう言う。「ほらあれが2020年の選挙で米国の有権者の票を集計できないように、米郵政公社を故意にダメにした男だよ」と。

その可能性はすでにデジョイ氏については進展しているようだ。大統領がいたるとこで郵便投票に関するまったくのでっちあげの種を撒く一方、デジョイ氏は18日、経費削減策やその他営業上の変更を先送りすると宣言した。

しかし、私たちはデジョイ氏やトランプ氏が今回の選挙に誠実に対応することを当てにはできない。例えば、デジョイ氏は、郵便投票の価値を低下させるために言及してきたことを取り消すとは言わなかった。

私たちはすべての地域が投票所で働くスタッフをより多く採用できるよう支援しなくてはならない。つまり、誰もが代表者であると感じられるよう、多くの共和党支持者、民主党支持者たちの力を必要としている。そうすれば、投票所は閉鎖さることなく、投票したいすべての人に対処することができる。

あなたが若くて健康、またはウイルスに感染したがすでに回復しているのであれば、投票所で働くボランティアに志願しよう。米国選挙支援委員会のウエブサイトには、投票所で働くスタッフになるための方法と投票ルールに関する州ごとの詳細が掲載されている。

同時に、「vote.org/am-i-registered-to-vote」のサイトで、選挙登録がすんでいることを確認しよう。登録されていて郵便投票を希望する場合は、「vote.org/absentee-ballot」のサイトで11月の選挙の不在者投票を申請しよう。

私にとってこれは私たちの世代のDデー(ノルマンディー上陸作戦)なのだ。Eデーと言ってもいい。考えてみて欲しい。1944年6月6日にノルマンディーの海岸に上陸した米国の兵士たちは、ナチスの激しい砲撃の中、実際、命を懸けて投票していたのだ。そのおかげで私たち米国民は、投票所であれ郵便であれ、あの日以降のすべての選挙で、たとえパンデミックの只中であろうとも、投票をすることができる。

今度は私たちが立ち上がる番だ。ビル・クリントン元大統領のもとでホワイトハウス主席報道官を務めたドン・ベア氏は、先日私にこう述べた。「何百万人もの大学生が自宅待機をしたり、リモートで授業を受けている。彼らは1944年6月の朝、ノルマンディーの海岸へ上陸した兵士たちとほぼ同じ年頃だ。」

「彼らが投票監視員に志願し、感染検査を受けてくれれば、そしてもし感染していなければ、感染リスクの高い有権者や市民を一人ずつ投票所に連れて行く手伝いをしてくれたら、そして、投票所を私たちの最も基本的自由を行使するための安全な場所にするために、必要なだけ頻繁に消毒をする手伝いをしてくれたら、どれだけ大きな助けとなるだろう」

私はあなたが誰に投票しようと構わない。ただ、一部の人が投票できないよう、その結果一部の票が集計されないよう、意図的に工作しようとする人たちに、この選挙が盗まれることがあってはならない。そんなことになれば、ノルマンディーの海岸で戦った若い兵士たちへのこの上ない侮辱となるだろう。